土砂災害対策に係る事業の実施状況についての報告書
(要旨)
1 検査の背景 (1) 砂防法等の制定
我が国では、明治30年に砂防法(明治30年法律第29号)、昭和33年に地すべり等防止 法(昭和33年法律第30号)、44年に急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭 和44年法律第57号)がそれぞれ制定され、土砂災害対策事業が開始された。
(2) 土砂災害防止法の制定等
平成12年に、土砂災害から国民の生命及び身体を保護することを目的として、土砂 災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。 以下、「土砂災害防止法」という。)が制定された。これにより、都道府県は、基礎調 査を行い、土砂災害警戒区域(以下「警戒区域」という。)及び土砂災害特別警戒区域 (以下「特別警戒区域」といい、警戒区域と合わせて「警戒区域等」という。)を指定 し公表することとされた。
そして、26年8月の広島県における土砂災害を契機として、27年1月に土砂災害防止 法が改正され、基礎調査により土砂災害の危険性の高い箇所が判明した場合は、警戒 区域等に指定される前であっても、その結果を住民に公表することなどとされた。
2 検査の観点及び着眼点 (1) 検査の観点及び着眼点
土砂災害の危険性の高い箇所については、ソフト対策と連携して限られた予算の中 でハード対策を着実に実施していくことが重要である。
そこで、会計検査院は、砂防関係施設について、合規性、効率性、有効性等の観点 から、次の点に着眼して検査を実施した。
ア 警戒区域等における砂防関係施設の整備状況等はどのようになっているか。 イ 土砂災害対策事業が効率的に実施されているか。
ウ 砂防関係施設の定期点検等は適切に行われているか。
エ 既存の土石流対策砂防えん堤について、土石流による被害を軽減させるため、除 石が適切に行われるなどしているか。
会計検査院は、27都道府県管内において国庫補助事業等により実施された土砂災害 (注1)
対策事業等を対象として検査した。
(注1) 27都道府県 東京都、北海道、京都府、秋田、山形、茨城、群馬、 埼玉、千葉、富山、福井、愛知、三重、兵庫、奈良、和歌山、 鳥取、島根、山口、徳島、香川、愛媛、長崎、大分、宮崎、 鹿児島、沖縄各県
3 検査の状況
(1) 警戒区域等における砂防関係施設の整備状況等 ア 警戒区域等の指定の状況
警戒区域の指定状況についてみると、指定が比較的進んでいる都府県がある一方 で、土砂災害危険箇所数に対する警戒区域の指定区域数の割合が30%以下となって いるなどしていて、指定が進んでいない道県もあり、都道府県によって進捗状況に 大きな差が生じていた。そして、特別警戒区域の指定状況についてみると、警戒区 域の約半数の区域に特別警戒区域が含まれている状況となっていた。
イ 砂防関係施設が未整備の特別警戒区域における保全対象の状況等
砂防関係施設が未整備である特別警戒区域を含む警戒区域の一部等が人口集中地 (注2)
区となっている警戒区域についてみると、土石流では692区域、急傾斜地の崩壊では 6,882区域となっていた。
(注2) 人口集中地区 Densely Inhabited District(DID) 市町村の境域 内で人口密度が原則として4,000人/㎢以上の国勢調査の基本単位区が 隣接して、その人口が5,000人以上となる地域
ウ 土砂災害の発生箇所におけるソフト対策及びハード対策の実施状況等
土砂災害は、同じ箇所で繰り返し発生する可能性もあることから、12年から26年 までの間に人的被害が生じた土砂災害の発生箇所78か所についてみると、警戒区域 等に指定され、かつ、砂防関係施設等が整備されている又は整備中の箇所は46か所 (58.9%)となっていた。また、これらの土砂災害の発生箇所の中には、過去にも 土石流が発生したこん跡があるとされているものも見受けられた。
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(2) 土砂災害対策事業採択後の工事の実施状況 ア 事業採択後の工事の実施状況等
において工事を実施することとしているものが15事業となっていた。 イ 工事が未着手の事業に要した事業費
都道府県は、事業採択後は国庫補助事業等により用地測量、詳細設計等を行うこ とになるが、前記の工事が未着手の34事業について、21年度以前に実施した詳細設 計等の業務に要した事業費のうち、判明した事業費についてみると、計6億4991万余 円(国庫補助金3億7845万余円)となっていた。
(3) 砂防関係施設の維持管理
ア 砂防関係施設の定期点検の実施状況
26年度における定期点検の実施状況についてみると、砂防設備では27.7%、地す べり防止施設では29.2%、急傾斜地崩壊防止施設では26.7%となっていた。 イ 砂防設備の位置の把握と定期点検等の実施
一部の砂防設備について砂防設備台帳が作成されていないなどの事態が11都府県 (注3) において見受けられた。また、砂防設備台帳に砂防設備の位置が記載されているも のの、一部の砂防設備台帳に不備があり、記載されている位置に砂防設備が確認で きないため緊急点検が実施できていないとしているなどの事態が、7県における計4
(注4) 3基の砂防えん堤等において見受けられた。
(注3) 11都府県 東京都、京都府、秋田、茨城、福井、愛知、奈良、島根、 徳島、大分、鹿児島各県
(注4) 7県 秋田、山形、富山、愛知、徳島、大分、宮崎各県 (4) 土石流対策砂防えん堤により被害を軽減するための方策
砂防えん堤は、計画上、定期的に、又は土石流が発生した場合等に必要に応じて、 砂防えん堤の背後に堆積した土砂等の除石を行うこととしているもの(以下「除石管 理型砂防えん堤」という。)と、除石を行わないこととしているもの(以下「非除石管 理型砂防えん堤」という。)に分類される。
ア 除石管理型砂防えん堤について
除石管理型砂防えん堤については、警戒区域に多数の人家等が所在しているもの もあるが、除石を行う際に必要な管理用道路が整備されておらず、かつ、除石計画 において搬出方法が記載されていないものが見受けられた。
イ 非除石管理型砂防えん堤について
域に多数の人家が所在しているものも見受けられた。
4 所見
国土交通省においては、今後、基礎調査が確実に実施されるよう努めるとともに、以 下の点について都道府県に助言するなどして、砂防関係施設を効率的に整備し、また、 施設が有効に機能するよう維持管理を適切に行い、もって土砂災害が発生した場合に人 的被害が軽減等されるよう努める必要がある。
ア 広島県の土砂災害を教訓に、砂防関係施設の整備に当たっては、保全対象に人家が 密集している区域があることを十分認識したり、過去に土砂災害が発生した箇所につ いてできるだけ把握したりした上で、優先順位を検討し、限られた予算の中で効率的 に実施すること
イ 土砂災害対策事業を実施するに当たり、砂防関係施設を整備する箇所の地権者等に 対して、土砂災害の危険性や事業の重要性等を十分説明し理解を求めることなどによ り、事業採択後は速やかに工事に着手し、より効率的に事業を実施すること
ウ 砂防関係施設については、土砂災害を防止又は軽減する機能が長期にわたり維持さ れるよう26年点検要領等により適切に定期点検を実施すること。また、砂防設備台帳 の不備を改善するとともに、一部の砂防設備については、位置を確認して速やかに点 検を実施すること
エ 除石管理型砂防えん堤については、必要に応じて除石を行うこととなっていること から、除石が必要となった場合に速やかに除石が行えるよう、管理用道路を含めあら かじめ土砂等の搬出方法を検討しておくこと。また、 非除石管理型砂防えん堤も含め、 既存の土石流対策砂防えん堤については、警戒区域等の土砂災害のおそれのある地域 の安全性向上に効果を発揮しているものの、引き続き全体計画において計画されてい る砂防えん堤の整備を効率的に進めるなど、土砂災害対策を推進していくこと